かみなぎ41

 建御雷が振るう剣は、すさまじいまでの風のうなりをともなって、巫女王の昼の御座の屋根を吹き払った。吹き飛ばされたのは屋根ばかりではない。八千穂は水鳥の羽のように我が身が浮き上がるのを感じた。そう思うまでもなく、つぎの瞬間にはしたたか床に叩きつけられていた。 うめきながらも体を起こすと、なにか頬につめたいものがぶつかるのがわかり、見上げてみると、雪でけむった、ねずみ色に切り取られた四角い空がある。

 屋根が吹きさらわれるなんて、信じがたいことであった。あれは、けっして軽やかなものではない。なにしろ王坐じゅうの采女が乗ろうとも、たやすく潰れない重々しい屋根だ。ただの雨や風ではものともしない。 しかし、これは夢ではないのだ。・・・真由の体を乗っ取った建御雷は、彼女の持つ巫の霊力までも我が物として振るっているのだ!

「大穴牟遅の皇子よ。疾く認めるがよい」

 建御雷は、痛む体に顔をゆがめながら、上体ばかり起こしてなすすべもない八千穂を、ひややかに嗤った。声は真由であったが、調子はといえば、まったくの別物だった。真由ならば、こんな居丈高な喋り方はしない。こんないやな嗤い方はけっして、しない。

「この娘は、わしのものなのだ」

「まゆは、おまえのものではない」

「では、誰のものなのだ」

 八千穂は言葉に詰まった。誰のものでもない、そう言い返そうとして、しかし建御雷の言いようが先手を打って彼の口をつぐませた。

「どんな時においても、どんな人間であっても、何かに縛られぬままに生き続けることはできまい。そもそも、そなたは、なぜ真由に執着する? そなたの怒りは、焦りは、ますますこの娘を不自由にするということ、まだわからぬか」

「ぼくがまゆを縛るなど・・・」

「しょせん、おのれが生きおる証明を真由に求めただけではないのか。恋だの愛だの、聞くだにむしずがはしる」

 建御雷は言い捨てた。

「この世の皆人が恋と愛で暮らせるならば、巫女王などいらぬ。腹がくちくなるならば、権力者などいらぬ。じっさい、神代に暮らしていた人間は、ごくそれに近かった。ただ日々の糧を野に求め、寒さを洞に飛び込んでしのぎ、支え合って生命をまっとうした。死を自然のうちに受け入れ、自由もまた、土地神のもたらす恵みの中にあった」

 まなざしもきびしく、建御雷は八千穂をみつめた。

「しかし人間は豊かさをおぼえはじめた。豊かであること、いつまでも若く美しくあること・・・」

 それから、ゆっくりと八千穂に近づいた。きびしい顔付きをほほ笑みに変え、建御雷は八千穂のまえにひざまずいた。彼の頬に手をのばすと、いとしむように、やさしく触れた。

「わしは豊かでありたい。若くもありたい。死は何より恐れるべきものだ。大穴牟遅よ、いや、大国主よ。いつまでもわしと共にあり、高天原をいや栄えさせよ。そなたのいとしい、この娘とともに」

 八千穂は触れてくる手を叩き落とした。立ち上がって跳び退ると、裳のしたにはいた剣を、さやから抜き放った。

「ぼくの欲しい豊かさは、おまえの言う豊かさとはちがう。・・・いつまでも美しい花はない。夏は緑が茂る木々の葉も、いつまでも枯れないわけがない。春のままでは、秋の実りはありえない」

 八千穂は剣をかまえ、建御雷に切っ先を向けた。

「おまえの言う豊かさは、にせものだ。巫の霊力とおなじ、あってはならない禍つものだ。・・・おまえは、とても醜い。ぼくがいとしいのは、おまえではない。おまえはまゆではない!」

 建御雷は八千穂の火のような拒絶にも、動じなかった。

「そなたも認めよ。そなたが望むゆたかさや、しあわせというものは、けっして与えられることはないのだ。人並みの幸せなど、動き出した禍つ誓約のまえでは、求めることすらすこぶる無益だということ、知るがいい」

 八千穂ははじめて動揺をみせた。畳み込むように建御雷はつづける。「真由を解き放つ方法は、ただひとつ。真由もろとも、わしを殺すしかあるまい。そなたに、それができるものか。・・・わしとともに生きよ。さすれば、そなたの願いは叶えられる。道はそれしかない」

 建御雷は、睨みつけてくる八千穂を余裕ありげに眺めていた。

「禍つ誓約におびえることなく、そなたは真由を抱くがいい。真由は巫女王の夜の御座で、そなたを待つ。高天原の血が濃く、霊力もあるそなたの子を孕めば、すえは次代の巫か、もしくは現神か・・・」

「黙れ、聞きたくない」

「ほほ、そなたを想う娘の心を聞きたくないと? 恋えば恋うほどに、真由がそなたを待ち侘びるこころは止めようがない。潤びるのは、なにもまなじりだけではない」

 真由の面輪に笑みをきざんで、建御雷はささやいた。その笑顔は、笑顔であるだけに残酷さが際立っていた。

「そなたが知らぬことをわしは知っている。この数日、そなたを想って身をこがす娘を、この手がどのようにして慰めたか、知りたいか?」

 言いながらも、胸乳のふくらみから、足がちょうど二つに枝分かれするところまで、建御雷はわざとゆっくり指をはわした。

「真由がどのように許しをこうたか、知りたいか?」

 もはや、その言葉の意味を知らない八千穂ではなかった。彼は赤くなるよりも、とっさに怒りで青くなった。

「黙れ!」

 八千穂はそう叫ぶよりも早く、突き上げる怒りで我をなくしていた。 どこまでも身勝手な建御雷の物言いに、八千穂はどう扱っていいかわからないほどの、激しい怒りを覚えたのだった。建御雷が言うのがウソだろうと真実だろうと、もうどちらでも構わなかった。ただ、これ以上喋らせるのは我慢ならなかったのだ。心のどこかが、落ち着け、冷静であれと叫ぶのを、八千穂は無理にもみ消した。

 はげしい憤りが生んだのは、炎だ。まぼろしではない。触れれば肉も爛れる真紅の炎が、まず八千穂の足元にほそい輪の形をとって生まれ出たのだった。

 炎の輪はそれ自体が生命を持つかのように脈動し、そのたびに大きく膨れ上がり、はげしく燃え上がった。これは八千穂の炎であった。炎の御子の本性は、あらぶる炎なのである。

「てこずらせる、やっと出しおったか」

 建御雷は、目を細めて八千穂の炎をみつめていた。炎の乱舞はこちらをぎりりと睨めつける八千穂のまわりを飛び交い、あるじの命令に忠実な犬のようだ。炎は無目的に燃え盛っているようにみえるのに、けっして八千穂を侵しはしない。八千穂が身につけたうす浅黄の衣裳と、蛇のようにうねる黒髪は、炎との色彩のせめぎあいが鮮やかで、これもまた建御雷の目を細めさせた。

「雄々しいかがやきをしている。そなたの炎は、これまでの神薙たちの使役していた、どの炎よりも、うつくしい。佐那来の男神は、その炎に燃やし尽くされたのだ。真紅とも、純白ともとれる、その炎に」

 八千穂はのたまう建御雷をにらみあげた。彼の瞳には、まさしく火よりも激しい憎悪があった。血の沸騰のあまり我をうしない、八千穂は建御雷をめがけて、いいや、真由をめがけて炎のけものを解き放った。

 しかし建御雷もだまって燃やされる気は、さらさらない。八千穂の逆上は考えのうちに入れていた。彼女は風の霊力で我が身を囲う壁をつくり、八千穂の炎を脇へ薙ぎ払った。御座の壁に衝突した炎は、黒い焦げあとをいくつも飛び散らせ、しかもまだ赤々と燃えていた。入り口に垂らされていた薄物に燃え移り、風のはたらきも加わり、やがて御座全体に火が回りはじめた。

「それで終わりか!」

 建御雷は声をうわずらせ、喜々として叫んだ。叫ぶなり、風がするどい刃となって、矢群れのように八千穂に向かっていった。耳をつんざく鋭い音もまた、凶暴なけものの牙が獲物に食らいつくごとくに、磨きぬかれた御座の床をえぐり取る。

 からくも刃を逃れた八千穂は、切り裂かれた裳裾を気に止めるひまもなく、走って逃れた。けれど慣れない裳が足先をとらえ、あえなくごろごろと転がった。

(どうすればいい)

 八千穂は、こちらへ歩み寄ってくる建御雷を、目を細めてみつめた。狂気と優越感を顔にはりつかせ、歩み寄ってくる「真由」。

 御座にまわった炎は黒々とした煙をだし、はやくも消し難い大きさで、王坐をじりじりと呑み込みはじめていた。

 禍つ誓約とは、これを予言しての母巫女の言葉だったのか。いいや、それとも母の禍言が、これほどまでに惨いさだめのなかに、真由と八千穂を追いやったというのか。

「剣を取れ、大穴牟遅」

 真由の面輪、真由のほほ笑みで、建御雷はやさしく言った。八千穂の足元には、鞘から抜き放たれた一振りの剣があった。八千穂の手から離れた剣だ。八千穂は焦りと絶望を奥歯にふくみ、ぎりぎりと歯がみをした。

「そなたの手で、わしにその剣を渡すのだ。・・・そなたも分かっているはずだ、そなたは真由を殺せぬ。なにより愛しい娘であればな」

 八千穂は唇をきつくかみしめた。建御雷がどこまでも八千穂を恭順させようとするのは、八千穂がいなくば真由の巫の霊力が働かないためだ。巫はふたりでひとり。建御雷が八千穂を殺せないのは、かたわれを失った巫は、まったくの無力に戻ってしまうためだ。

「わしの前にひざまずけ。その剣をわしによこすがいい」

 八千穂は震える手で剣に手をのばした。伸ばした手に、灰色の空からまばゆい雪が、そろそろとふり落ちてくる。

「すべてをあきらめるのだ。わしと共に生きることを選ぶのだ。そなたもやがて、その決断が正しかったことを知るだろう。わしとともに、あらたな国を打ち建てよう」

 八千穂は、胸にきつく食い込む違和感に、息を詰めた。剣の柄のほうを、わずかのあきらめとともに建御雷に差しだしかけた八千穂は、しかし思い止どまって剣を我が手に握り直した。

 八千穂は声も嗄れんばかりに叫んだ。

「おまえが作りたいのは、どんな国だ。朽ちない豊かさというもので塗り固めた、いつわりだらけの国か」

 剣を手渡すことは、とほうもない屈辱。建御雷にひざまずくことは、真由を救うことになるはずがない。八千穂はそれに気づいたのだった。 高天原はもう、いらない。大巫女王なんてものは、必要ない。

 王坐が燃えている。天照や須佐ノ男、それだけではない。たくさんの人を縛り上げ、泣くことや笑うことすらも許さなかった、ままならなくさせた、この王坐という場所が、燃えている。

 建御雷が言う豊かさが、人である喜びや、もろもろの感情を消し去ることのうえに成り立つというのなら、どこに豊かである必要があるのだろう。そもそもゆたかとは、なにをもってゆたかと言うのだ。

 八千穂の中にある王坐も、今このときあかあかと燃えていた。いつまでも朽ちることのない繁栄、名声というものを豊かさというのなら、八千穂はひもじくても構わなかった。

 建御雷は恋や愛などでは腹もいっぱいにならないと言う。しかし、すべてのはじまりは、そんなあたたかな気持ちを苗床として、芽吹くものではないのか。野にあるけものだろうと、恋をする。子をはぐくむ。人であろうと、けものであろうと、心のなかに持っている、底の底にながれる気持ちだけは、きっと変わらないはずだ。

 神代から受け継がれてきたのは、巫の霊力ばかりではない。あきらめることばかりが賢い知恵ではない。

 八千穂はたしかに、ひどく腹をすかせていた。しかしその空腹は、食い物ではいやされない。言うに言われない乾きは、清らかな水を飲めばいやされるものではない。建御雷の言う豊かさは、そのまま八千穂の豊かさではないのだ・・・。

「ぼくは、あきらめない」

 八千穂は言い放った。あきらめることは、このまま腹を空かせ続けることだ。このまま乾きを持てあましつづけることだ。

 建御雷はここまできて拒絶されたのを知ると、顔色を変えた。

「愚かものめ」

 八千穂を睨みつけると、建御雷は言い捨てた。

「真由はもはや戻らぬと言ったであろう。それがわからぬというのなら、わしをあくまで拒むというのなら、もうよい」

 彼女のまわりに、あらたな風がうまれた。足結いの袴をばたばたとはためかせ、下げ角髪に結った黒髪をなびかせながら、あきらかな殺意を込めて叫ぶ。

「刃向かうものは、いっそのこと死ぬがいい。霊力など、もうよい。そなたが死んでも、わしがこの娘の体を失うわけではないのだから」

 八千穂は剣を手にしたまま、息をするのもままならない強風にうめいた。足を踏ん張るが、その両足も立っているのがやっとだった。

「高天原にあだなすものは、死ね!」

 目には見えない風の刃が、ただ鋭い音をひきいて、ふたたび八千穂に向かってきた。八千穂はとっさに炎のつぶてをぶつけて、風刃の威力をやわらげた。とはいえ、すべてを凌げるわけではない。

 八千穂は知らぬ間に無数の傷をつくり、衣裳もぼろぼろになっていた。染み出す血はうす浅黄色の衣裳をところどころ赤く染め、八千穂はそのころになると肩で大きく息をしていた。

 八千穂も炎を繰り出さないわけではなかった。しかし彼には、たとえ建御雷に精神がのっとられていようと、真由を傷つける気はなかった。頭に血が上っていたときは夢中で炎を放ったが、八千穂の炎が風の壁の前にあえなくはじかれた時、ようやく正気を取り戻したのだった。

 風はまさしく、どのようにでも吹くのだ。炎はただ薙ぎ払われ、そこかしこでむなしく燃えているばかりである。王坐をつつむ炎は肌をちりちりと刺し、八千穂は満足に目を開けてもいられなかった。煙りにかすむ向こうの方、十足ばかり離れたところに、真由がいた。真由であって、どこまでも真由とはそぐわない、建御雷が。

 八千穂はさすがに絶望しかけたが、あきらめはしなかった。あきらめることは、すべてを失うことだ。・・・おもえば、真由と出会ってからすべてを見つけたのだ。真由を失ったら、なにひとつ見えていなかった愚昧のときに戻ってしまうだろう。

 煙が目に染みた。屋根がないおかげで炎は御座に籠もることがなく、火柱のごとくそそり立っている。建御雷も目が痛むのはおなじなのか、衣の袖で目元を何度もぬぐっていた。

「何やら、奇異な・・・」

 建御雷は思わずつぶやいた。涙がいっこうに止まらないのだ。煙のせいではない。まるで涙をためている袋が破れたように、ぼろぼろと涙がこぼれ落ちてくるのである。拭おうと拭おうと、あらたに流れでた涙は頬をつたわり、澄んだしずくとなって喉元をすべり落ちてゆく。

 それだけではなかった。唇が建御雷の意思とは関係なくうごき、なにか言葉を紡ごうとするのである。建御雷は焦らずにはいなかった。なにしろ、真由はまぼろしのなかでいつまでも遊んでいるはずなのだから。幸福な夢におぼれて、いつまでも眠っているはずだったのに。

「ころして」

 真由の唇は、ついにそうつぶやいた。涙にまみれた瞳は八千穂をとらえ、けっして離さなかった。唇はかさねて、悲痛に叫ぶのだ。

「ころして、ころして、はやく、やちほ!」

 目覚めた真由のこころと、建御雷に乗っ取られた体はまったく別物らしい。真由の手は握りしめた剣を離すことはなく、八千穂の急所に斬りつけてくる。建御雷の支配には抗えないのだろう、真由の体はいちずに八千穂を殺そうとした。八千穂も察するものがあり、苦痛をおして剣を切り結びながら、大声で言い返した。

「いやだ。ぼくはきみを殺すために、ここに来たんじゃない。ぼくは、きみと帰るために、ここへ来たんだ。帰ろう、まゆ」

 八千穂の細い首めがけて振り下ろされた剣が、瞬間、ぴたりと止まった。真由は内なるせめぎあいを思わせる、苦悶の表情をしていたが、ふいに腕をさげ、剣をおろした。顔を覆って、しゃくり上げはじめた。

「まゆ」

 八千穂は安堵の息を吐いた。八千穂の体は衣にも劣らずぼろぼろになっていたものの、そんなことはちっともかまわなかった。彼は剣をほうりなげ、真由に近づいてだきしめた。きついまでにだきしめると、真由が腕のなかで身じろぎをする。

「帰ろう」八千穂は低く言った。彼女をだきしめたとたん、押し寄せる疲れが波をもおもわせる荒々しさで、足元をすくっていきそうな錯覚すらおぼえた。・・・真由はすると、顔をあげた。彼女が奇妙なまでにやさしくほほ笑むのと、左の脇腹にはげしい痛みが走ったのは、ほぼ同じときだった。

「・・・そなたは愚かだ。泣きまねごときに騙されおって!」

 あらたな痛みにあえぎながら、物も言えないまま見下ろすと、剣が刺さったままの脇腹、真っ赤にそまった裳と染め帯が目に入った。

「まゆが戻ったのでは・・・」

 八千穂が言うなり、やけに高い笑い声が響いた。

「あぶないところだった。まぼろしに遊んでいるかと思ったに、夢は夢と見破ったよう。目が覚めかけていたので、ふたたびそなたのまぼろしをみせて眠らせた」

 言うなり、真由を乗っ取った建御雷は笑いをやめた。

「黄泉大神にふたたびまみえるがよい。今度こそ、死ね!」

 風を起こし、練り上げ、やがて八千にもおよぶ風刃をつくりあげる。あれは、八千穂をいちずに滅ぼそうとする風の刃だ。しかしではなぜ、真由の瞳には涙があるのだろう。

(ぼくにできるだろうか)

 最悪の状況で、真由のさいごの願いを叶えることしか八千穂にはできないのか。認めたくはなかった。しかし、このまま建御雷に領履かれるのなら、真由は死にたいと言ったもおなじなのだ。

(・・・終わらせよう、すべて)

 八千穂めがけて降りくる風刃を、彼はじっと見上げていた。その表情には、痛みと迷い。けれど、それらに勝るひとつの決意があった。

 八千穂は渾身の霊力でもって、炎を出せるところまで目一杯ひねりだした。彼の内に眠るすべての霊力を呼び起こすと、それは雄々しい火龍になった。牙をむき風の刃に向かうのは、たしかに八千穂の意思だった。「ばかな、真由と共に死ぬるつもりか!」

 建御雷は八千穂が真由を傷つけることはないと踏んでいたのだから、驚愕は道理なのだった。八千穂はまっすぐに真由をみつめた。

 この霊力ある風を打ち砕き、すべてから真由を解き放つ。それが八千穂の決意であった。

 風姫の本性、風。炎の御子の本性、炎。

 それらがお互いの霊力の際限で、はげしくぶつかり、はじけ、それでも別離はできないまま、寄りそいあって、ふたたびまじり合った。

 八千穂は風になぶられたり、炎に痛いまでに焼かれたりしながら、やがて何もかも分からなくなった。ただ彼の腕のなかには、やっとみつけることができた、あたたかな感触があった。

 巫の霊力と、このぬくもりと、一体どちらがとうといだろう?

 八千穂はふと考えた。どんどん冷めてゆくぬくもりに、八千穂は追いすがるようにきつく真由をだきしめた。しかし冷たい体は、もはや抱擁を返すはずもなく、八千穂に無言のまま責め苦をあたえつづけた。

 いつのまにか風も炎もなくなって、あたりは静まり返った。八千穂はたまらずに嗚咽をこぼした。

(ぼくが殺したのだ。ぼくは、自分からぜんぶを捨ててしまったのだ) だれを憎めるだろう、だれがこの責め苦を八千穂のかわりに負うというのだろう。すべてが終わってしまった。そして、終わらせたのは八千穂自身だった。

 禍つ誓約。さだめというものに、抗いながらも逃れられなかったやるせなさに、骨も臓腑も押し潰されそうだった。

 失ってまで取り戻したものの残酷さを、八千穂は悲鳴にかえた。

      *        *        *

 その瞬間、雪をふらす灰色の雲のとばりの、そのまたむこうにあった白い太陽が、しだいに欠け始めた。雪がふっているとはいえ、まだ午前。それなのに天も地も闇を足らしめ、やがてまったくの暗闇になった。雪がなく、空が晴れ上がっていれば、もしかして星も見えたかもしれない。 ふいに訪れた暗闇は、高天原を底からくつがえすほどの動揺を人々にあたえた。それ以前にも、どこかが突然燃え出したとか、煽り風がすさまじいとかで、王坐は人々のどよめきと悲鳴で満たされていた。

「よそ見をするなよ」

 王坐内で伊住と鳥船は剣をはげしく切り結びあっていたが、葦生の加勢があってこちらが押し気味だった。鳥船はさまざまな霊力を使役できる現神であったが、伊住は鳥船の霊力あるまなざしを見ないように十分注意をしていたし、太陽が闇に食われたあとでは、鳥船の繰り出す剣にもまるで覇気が無くなった。伊住はその隙をのがさずに、鳥船の剣をはじいて落とした。

「太陽が隠れたくらい、なんだい。夜が寝ぼけて、気も早くやって来ただけだろうよ」

 伊住は豪気なのだか、のんきなのだかわからない調子で、言い捨てた。剣をなくして、はいつくばった鳥船をひややかに見つめると、伊住はたずねた。

「何か最後に言うことがあるかい」

 親と故郷をほろぼした仇のような男である。伊住はひややかに鳥船を眺めながら、まっすぐにその目をみつめた。神威のあるという目、父に惨い死に方を強いた目を、まっすぐにみつめた。

「殺せ。わたしはもはや、殺し飽いた。穏やかな死に方もまたできまいと思っていたところだ」

 鳥船は言い、媚びるように笑っただけだった。伊住は鼻を鳴らすと鳥船の胸倉をひきよせ、剣の先をつかって何かを切り取った。伊住の手にあったのは、ちっぽけな勾玉をひとつきり通した、綾の紐だった。

「あんたはそうして生きていな。媚びた目で、これからずっと、死ぬことに怯えていればいい。夜におびえた童男みたいに」

「伊住、ここももう長くはもたない」

 伊住は勾玉を胸元にしまいながら、葦生がうながすのに答えた。それから、思い出したように、放心している鳥船を振り返った。

「いいかい、一番むごいのは、ひとりぽっちで死ぬことなんだ。だれにも悼まれずに、さびしく死ぬことなんだ。・・・だれかに殺されることじゃない」

 王坐を包み込んだ火の手は、巫女王の昼の御座を中心にして燃え上がっていた。はやくも王坐に立ちのぼる火柱は人の手では消し難く、ただ燃え盛るにまかせるしかないのだった。炎の重みでぎしぎし音を立てる天井をみあげながら、葦生は言った。

「伊住、これ以上は無理だ」

「ばかを言うなよ。ここで引き下がったら、なんのためにここまで来たか分からないぜ」

 御座ちかくに来たはいいものの、煙と炎で先に進めない。しかし、まだ八千穂と真由がみつかっていないのだ。それに、大蛇の勾玉をふたつも身につけているせいか、なにやら強く引き寄せられるものを感じるのもたしかなのだった。

伊住は煙を見据えた。この煙の向こうに、あとひとつがある。何のあかしもないが、確信だけはあった。三つに分けられた大蛇神のたましいが、ひとつになろうと呼び合っているのだ。

 鳥船とのひと悶着で、伊住もまったくの無傷というわけではなかった。しかし、勾玉どうしの引き合う強さにあらがえる伊住ではなかった。

「火よりも煙が恐ろしいと、わたしのじいさんは言っていたよ。いや、まて。あんたは今にも倒れそうだ。わたしが行く」

 葦生もけして恙無いというわけではない。しかし伊住の真剣さにおされ、そう言うなり煙の中に飛び込み、やがてひとりの童男を連れ出してきた。ぐったりとした童男は身につけた衣の、胸と股あたりがススにまみれており、煙から逃れようと、必死にここまで這ってきたのだろうと想像がついた。

「気に入った。わんわん泣いているよか、ずっと好きだね」

「大蛇の勾玉など、ないぞ?」

 葦生は飾り紐がないかと首あたりを調べたが、それらしきものはなかった。伊住はそうしている間にも、煙がどんどんあたりに濃くなっているのに気づいた。伊住はあきらめきれない気持ちを押さえ、首を横に振った。

「いや、もう、どうだっていい。とりあえずそのがきを連れて、外に逃げよう。そういえば、馬だ、この近くに厩舎があっただろう」

 八千穂と真由が気になったが、このままぐすぐずとしていたら、こっちまで丸焼けになってしまう。生命あっての何とかとも言う。青田彦は首尾よく逃れただろう。心配はしていない。

「王坐が燃えちまって、そのうえ太陽まで隠れたんだ。こんな奇異事のなかで、まじめに門を固めているやつなんて、いるわけがないさ」

 とうに剣は捨て置き、二人はまろびでるようにして王坐から逃れた。昼の御座や天照一族の住居をふくむ殿舎。そこからほど近い客人用の厩舎のひとつには、おとなしくつながれている馬が三頭きり。はじめは四頭いたものだったが、青田彦が使ったのかもしれない。これらは薬長屋から乗り付けてきた馬である。

 斬られた体の痛みをおして馬の背に乗ると、王坐を囲むようにして十二ある門のひとつまで、一気に駆け抜けた。大路につづく、ひときわ大きな正面の門だ。

 普段ならば、何人もの人手をもちいて、門の開閉もせわしないものだが、こんな非常時にあっては、そうもいかない。火事から逃れようとする人々を気配だけで感じながら、伊住はいまさらのように恐れが込み上げるのを、訝しく思う。

 昼間に太陽が隠れるという奇異事。この世の終わりか、はたまた天の気まぐれなのか。どちらにしても、鳥船と真向かっていたときの高揚が冷めはじめると、伊住はあらためてこの暗闇をおそろしく思ったのだった。・・・いやな予感がぬぐえない。八千穂と真由はどうなったのか。やはり八千穂をひとりで行かせたのは考えなしだったのか。

 悲鳴のみちる高天原の大路を駆け抜けながら、伊住は知らず知らずのうちに、大蛇の勾玉をふたつ握りしめていた。

「伊住、日が・・・!」

 後ろのほう、馬を走らせる葦生の叫びが耳をついた。欠けて無くなったはずの太陽が、現れるときはやけにするすると姿をあらわした。雪はやんでおり、灰色の空だけが憂いをためて、白すぎる太陽の姿を見せている。葦生は感じ入ったように言った。

「じいさんから話を聞いたことがある。あれは、月が陽を食っていたんだ。高天原にとっては禍事だろうが、国つ者にとっては、なによりも喜ぶべき吉言だと・・・」

 纏向市街をぬけ、やがて市庭に至った。高天原を食いつぶした流行病のせいで、異国からの船はすべて河内で止まるか、引き返すかしている。品物が入ってこない市庭は、クズ庭だ。さっぱりするくらい何もない市庭をわき目もふらず通り過ぎると、開け放されたままの大門をこえ、そのまま走り抜けた。

 ふたたび明るんだ視界の向こう、川をまたいで架けられた橋の上に、今にも倒れそうに、よろよろと歩いている衣裳姿の娘があった。王坐から逃れてきたものか、ぼろぼろの衣裳は、血のにじんだうす浅黄色・・・。「八千穂か!」

 伊住は駆け過ぎるところを急に馬足を止めた。ゆるゆるとすすけた顔を上げたのは、やはり八千穂である。腕には衣袴に角髪という男装をした真由を横抱きにし、けれど今にも真由を取り落とし、自分も倒れそうな青ざめようである。

 なぜこんなところにと聞く前に、伊住は八千穂の深手を見て取った。取るものもとりあえず、ふたりを馬に乗せたものの、葦生が抱きとめる真由の体はぐったりとして、しかもまるで生気がない。八千穂のほうもひどく息が荒く、いまにも死にそうだった。裳はじっとりと血で濡れそぼり、馬の揺れさえ、今の八千穂を殺すやもしれない。

 背にかかる八千穂の重みを感じながら、焦りとともに陣へかえると、真由と八千穂は明日香姫のひろい天幕に寝かされた。

 かろうじて意識のある八千穂は、明日香の顔を視界にみとめると、ほほ笑んだ。それは悲しいまでに痛々しい笑顔だった。いままでかたく握り締めていたこぶしをひらくと、なにやらうつくしい輝きがあらわれた。「八千穂よ、やり遂げたのだな」

 明日香は八千穂の手を取ると、その輝くかけらを手に取った。

「最後に、真由と触れ合ったとき、御鏡が、合わさったような・・・。気が付くと、このかけらを握っていた」

 明日香は泣きそうな顔でほほ笑んだ。

「わかっているよ。月が太陽をかくす奇異は、御鏡がほろびた証明だもの。あらたまの月が隠す太陽は、まさしくあらたな始まりよ」

 御鏡のかけらをみつめると、やにわに八千穂の傷口にそれをあてがった。八千穂はふしぎそうな顔をして、明日香をみつめる。御鏡のかけらの輝きが触れた傷は、血もとまり、どこも跡がうっすらと残っているばかりであった。致命的な脇腹の傷も、ずいぶんと楽になった。

「御鏡には不死と再生の霊力があると、言ったろう? ぬしがこのかけらを持ち帰ったおかげで、ぬしは死なぬ」

 ずいぶん呼吸もすこやかになった八千穂は、しかし新たな傷を身に受けたように、顔を歪めた。

「もう遅い。まゆは死んでしまった。ぼくが殺した」

 八千穂は、うずく傷口にうめきながら、ささやいた。

 彼はもう巫の霊力をうしなっていた。八千穂の捻り出した炎の龍。あれが八千穂の飼っていた、けものであった。それを解き放ち、かたわれである真由を殺してしまったから、霊力の行使もまたできないのではないのか。八千穂は絶望とともにつづけた。

「ぼくだけが生き残って、いったい何になるだろう。禍つ誓約に立ち向かうと言いながら、結局ぼくは・・・」

「うそだろう」伊住は低くうなった。「こんな終わり方は、まったくばからしいぜ。こんな終わり方が、あっていいもんかい」

 伊住が顔をゆがめ、泣き顔めいた表情をつくるほど、真由は死人らしくみえたのだった。

「死んだと思ってか?」

 明日香は低く言った。

「たしかに息はしていない。けれど、心の臓はどうだい?」

「かすかだが、脈があるぞ」

 卯月が声をあげた。明日香は神妙につづけた。

「そのかけらを用いれば、真由を復ちさせることができる。今のままでは、いつ目を覚ますかもわからぬ。それに、目を覚ましてのち、真由が正気を保てているかもわからぬ。いや、正気ではいないだろうね。なにしろ、建御雷にこころを探られたあとであれば」

 青白いまでの真由の顔を、八千穂はじっと見つめた。死んではいないと聞いたものの、生きているとも思えなかった。

 明日香は八千穂にかけらを差し出した。八千穂はおずおずと受け取りながら、明日香をみつめる。かけらの放つかがやきは、さっきとは違ってごく弱かった。八千穂を癒したためだろうか、御鏡とはいえ、うっすら輝きを漏らすばかりのかけらに、蘇生の力があるかは疑問だった。

・・・なにより、このかけらは、明日香の生命をつないでいるもののはずだ。建御雷との戦いで御鏡も砕け散ったいま、この世に残る御鏡は、この手のひらのちっぽけなかけらでしかない。

「・・・よい。言ったであろう? わたしはぬしが約束を果たしに来るのを待っていたと。そして、ぬしは約束どおり、この世に不要な御鏡をうちくだいた。ちっぽけなかけらとはいえ、御鏡は御鏡。どちらにしろ、残っていてはならぬ代物よ」

 八千穂は、ゆっくりとうなずいた。明日香は、寝かせられたままの真由と八千穂をのぞくすべての人間を天幕からしめだした。

「おんきみ」

 長年そばにいた卯月などは、別れの場に同席できないのを悔しがった。 ふくよかなほほ笑みとともに、明日香は言いさとした。

「そなた、わからぬか。わたしはこれから、滞っていた成長を解き放つのだよ? 育ち、老い、朽ちる。そのような姿を、そなたらに見られたくはない」「そんな、おんきみ・・・」

 卯月はたまらずに目を伏せたが、伊住にむりやり引っ張って行かれた。青田彦も無事に陣に戻っており、葦生が王坐から連れ帰ったススだらけの童男を見て、驚きの声を上げた。

「これは、天孫ではないか!」

「真由がなぜ目を覚まさぬか、わかるかい?」

 明日香はたずねた。八千穂は首を振った。

「真由のこころは、きしんで悲鳴を上げている。いまにも壊れそうだ。無理に起こせば、かならずや穏やかにはすまぬ。荒らかにひっぱりだそうとすれば、ますます殻にこもるだろう。とはいえ、いつとは知れぬ目覚めのときを、ぬしは待てるか?」

「待てない」八千穂はきっぱりと言った。真由の身を案じるばかりでなく、若者らしい性急さが彼にそう言わせていた。

「待たねばならないのなら、待つ。けれど、ぼくが翁になる前までには、目を覚ましてほしい・・・」

 いつか見た夢。眠ったままの真由をそのままに、八千穂ばかりが老いていくという、まったく笑えない夢を彼は思い出したのだった。明日香はほほえんだ。

「案じるな。ぬしはうまくやる。・・・しかし、いいのだね? わたしができるのは、真由の魂の室への道をつなぐこと。そなたと真由を出会わせてやること。よいか、生きることへの希望を思い出させておあげ。けしてあきらめてはならないよ、二度目はないのだから」

 八千穂は少しだけ笑った。

「あきらめるのには、もう飽きてしまったよ」

 明日香はうやうやしく真由の胸にかけらを添え置いた。御鏡のかけらはかすかに、しかし強く輝いて八千穂をはげました。八千穂はかわいた血のこびりついた指先で、かけらの表面にふれた。ふれると、まず、すずやかな水のにおいを感じた。

 深く吸い込むと、そのむこうに真由をかんじた。いたましく傷つけられて、かえる道をわすれてしまった真由がいた。・・・八千穂は手をのばし、やがてなにかをつかんだ。ふるえていて冷たい、だれかの手だ。

(まゆ?)

 つかんだと思ったものが、するりと八千穂の手からすりぬけた。そう思うまでもなく、追おうと思った八千穂は引っ張られ、ふわりと気が遠くなった。

 明日香は、かがやきを失いはじめた御鏡のかけらを、じっとみつめていた。横たわって堅く瞳をとじている真由のうえに、覆いかぶさるようにして八千穂が意識を無くしていた。八千穂の手はつめたい真由の手をにぎりしめている。

「消えゆくべき御鏡は、輝かなくなれば終わり。そなたを導くこともかなわなくなる。八千穂よ、いそげ」

 明日香はそうつぶやいた。彼女の顔色もまた真由に劣らずあおざめており、御鏡の不死によって押さえ付けられていた、彼女の成長もすでにはじまっていた。

 十四、五の少女のすがたは、蕾がためらいがちに花を開くよりも速く、急速に育っていた。背は伸び、少女の袴をすぐにきつくした。くるぶしまであった浅葱色の袴はひざまでのごく短いものになり、まろみをおび出したのは胸や腰のあたり。

 明日香はその変化を悲しみとむなしさ、そして安堵とで感じていた。 鏡守りとして、御鏡を手にする者に降りかかる呪いのことは、明日香とて知らないはずは無かった。御鏡を引き受けたときから、明日香の時は止まっていた。そして、死を恐れずにすむゆえの、どうしようもない無気力をもてあまして生きてきた。・・・人々のてらいのない笑い顔は、理屈ではなく明日香に彼らを憎ませたのだった。

(今日も明日も、区別がつかなかった。だいじなものを忘れかけていた)「そなたらを見ていると、わたしはそれを思い出さないわけには、いかないようだよ」

 明日香は急に高くなった視点にとまどいながら、真由の胸からすべりおちていたかけらを手にとった。かがやきはごく細く、真由の魂の室につづく水面の影ばかりが、明日香の目をほそめさせた。

 明日香はしなやかなひとさし指を、かけらの中に差し入れた。

 お互いをもとめてさまよっている者たちを導き、出会わしてやる。それが明日香がこの世でなすべきさいごの事だ。そして、さいごを飾るのに、これほどふさわしい仕事はないようにも思われた。

 これから育まれていかねばならないものがある。国生み神話がいうように、すべてを生み出すのは男と女。受け継がれ、または交わってあたらしいものを作り出すのは、血の流れだ。血脈は奔流ともなって、たやすくは途切れない強さ、たくましさを見せつけるだろう。

 国つ者と高天原のあらがいは、終わったわけではない。御鏡がうみだしていた巫の霊力はなくなったが、血の奥深いところにある拮抗の感情が、高天原と国つ者、そのふたつが解け合うことを、これからの長い時間はばみつづけるのだろう。

「お起き。そなたらは眠るにはまだはやい」

 ゆずり、ゆずられるものがある。この芦原中津国よりも、もっとずっと大きな、ずっと根深いものがある。血脈とともに受け継がれるもの。 それは遠い神代のころからの争いの記憶かもしれないし、争ってなお引かれ合う因縁のふかさと、どうあっても打ち消せない、相手へのいとおしさかもしれない。

 そんなものをすべて抱え込んで、なお血はつづいてゆく。きらびやかな御座を譲り受けることが、人々を領履く大王になることが、まことの国ゆずりではない。

 明日香はようやく出会った、ふたつのたましいに安堵し、満ち足りた吐息をもらした。

                            

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